2020.05.27
神戸の法律事務所、明石恵典法律事務所です。
前回は経営改善を目的とする人員整理の総論について書きましたが、今回は各論である「整理解雇」について書きます。
「整理解雇」とは、部門の縮小や閉鎖などで余剰人員を解雇することです。整理解雇が有効となるには、①人員整理の必要性、②解雇回避努力義務の履行、③人選の合理性、④手続きの妥当性の4つの要件(整理解雇の4要件)を原則として全て満たさなければなりません。
①「人員整理の必要性」について
「人員整理の必要性」とは、会社経営が、整理解雇をしなければならないほど悪化しているのかということです。この要件を満たすには、整理解雇をしなければ倒産してしまうという程度までは求められておらず、会社経営上、整理解雇が合理的であればよいとされています。
もっとも、単に経営が悪化したと言うだけではなく、過去の決算書や、経営指標などを参考に、どの程度経営状態が悪化しており、どの程度の人員削減が必要であるのか、具体的に説明をできなければなりません。現状、人員整理の必要性があるかについては、専門家であり、かつ会社の経営状況についてよく把握をしている顧問の税理士にまずは意見を聞くことが良いと思われます。
②「解雇回避努力義務の履行」について
原則として、会社には社員の解雇を防ぐ義務があり、業績悪化による解雇は、あくまで最終手段です。整理解雇が認められるには、役員報酬や経費の削減、配置転換、新規採用の中止、従業員の賃金引き下げ、希望退職の募集など、解雇を避けるために十分な努力をした上で、やむなく整理退職を行うという状況であることが必要です。もっとも、具体的に解雇回避のためにどのような努力をすれば良いかについては、各会社の経営状態によって異なりますので、専門家である弁護士の意見を聞いた方が良いと思われます。
なお、会社が再生する上で、必要な投資や人材の確保などまで禁止されているわけではありません。このため、会社の経営改善のために新たな事業に着手し、必要な機材を購入するなどの活動をしたとしても、そのことから直ちに解雇回避努力義務を履行していないことにはなりません。
③人選の合理性
整理解雇対象者を決める際の人選が合理的かつ公平でなければなりません。どのような人を選べば合理的なのかは企業によって違いますが、一般には、正社員よりもパート、アルバイト、人事評価が高い者よりも低い者など、労働者の雇用形態や企業債権へ向けての期待度、解雇が労働者の生活に及ぼす影響などを考慮する必要があります。この点については、専門家であり、かつ社内の従業員事情に詳しい社労士の意見を聞くことが良いと思われます。
④手続の妥当性
整理解雇をするに当たっては、十分に従業員や労働組合と協議を行わなければなりません。もっとも、整理解雇に移る前に、従業員と協議を重ね、合意退職を目指すのが定石ですから、その時点でキチンと協議をしていれば、この要件を満たすこと自体はそれほど難しくはないでしょう。
以上のように、整理解雇は一筋縄では行かず、相応の時間と専門知識が必要になります。また、経営者の方が一筋縄ではいかない整理解雇に掛かり切りになってしまうことも、会社の経営改善を考えれば良いことではありません。弁護士や、税理士、社労士といった専門家を上手に使って、経営者の負担を減らしながら、トラブルの発生を未然に防ぐことが肝心です。